第6回定期演奏会 楽曲紹介



P. チャイコフスキー

19世紀後半のロシアの作曲家。幼い頃から音楽に親しみ、才能に恵まれていたにも関わらず、法律学校に入学した。卒業後は法務省で働くが、音楽への思いが断ち切れず、23歳にしてペテルブルク音楽院に入学し、音楽家として生きる道を選んだ。卒業した後は、モスクワ音楽院で教鞭を取りながら、ピアノ協奏曲第1番(1875)や白鳥の湖(1876)の他、多くの作品を世へ送り出した。また。1877年から14年間、チャイコフスキーのパトロンとしてフォン・メック夫人(1831~1894)がその作曲活動を支えた。

その後夫人の支援により、音楽院での仕事を辞めて、作曲活動に専念できるようになったチャイコフスキーは、ヴァイオリン協奏曲(1878)や弦楽セレナード(1880)、祝典序曲<1812年>(1880)などを生み出し、その名声を西ヨーロッパまで轟かせた。1888年にはチャイコフスキーの数々の作品の中でも傑作とされる交響曲第五番、1893年にはチャイコフスキーの最後の作品である交響曲第六番が作曲されたが、その初演から9日後にその一生を終えた。


イタリア奇想曲 作品45

この曲は、チャイコフスキーが40歳のときに作曲し、同年12月にモスクワでN.ルビンシテインの指揮により初演された管弦楽曲である。作曲者がイタリア各地で耳にした民謡や舞曲を取り入れ、「イタリアらしさ」を鮮やかに表現した作品であり、19世紀ロマン派音楽における「外国人が見たイタリア」を代表する一曲とされている。

この曲の構想は1878年のイタリア旅行にさかのぼるが、具体的な着想は1880年のローマ滞在中に得られたものである。滞在していたホテルの隣にある近衛騎兵連隊の兵舎から毎夕聞こえてきたファンファーレが冒頭の主題として採用されている。また、同時期に父の死を知らせる電報を受け取ったことが、曲全体に反映されていると考えられている。これらの要素が融合し、個人的体験とイタリアの音楽的要素が結びついた独自の表現となっている。

楽曲は二つの部分に大別される。前半は荘厳で重厚な葬送音楽を基調とし、その中間部ではイタリア民謡「美しい娘さん」や技巧的なフレーズが登場し、華やかな展開を見せる。後半はタランテラの舞曲による躍動感あふれる展開が中心となり、再び「美しい娘さん」の旋律が現れ、壮大なクライマックスを築く。最後はリズムが加速するストレッタによって華麗に締めくくられる。

チャイコフスキーは生涯にわたりイタリアを訪問しており、この曲には彼の南欧文化への憧れと観察力が凝縮されている。哀愁と情熱を織り交ぜた旋律、そして卓越したオーケストレーションにより、聴く者にイタリアの情景を鮮明に思い起こさせる名曲である。


組曲「白鳥の湖」より抜粋

No.1 情景 (第2幕 第10曲)

第2幕の前奏曲に当たる曲。弦とハープの伴の上に歌われるオーボエの旅はクラシック音楽の中でももっとも有名なものの一つで、「白鳥のテーマ」とも呼ばれる。寂しい雰囲気が次第にダイナミックに盛り上がっていき、クライマックスで出てくる3連符は悪魔を暗示している。

No. 2 ワルツ (第1幕 第2曲)

王子の求めで村魚が弱るコール・ド・バレエ。チャイコフスキーの書いたワルツの中でも、もっとも有名な曲の一つである。弦薬器がピツィカートによる序奏に続き、大きなメロディを優雅に歌い始める。楽しげなメロディが出て来るなど、変化に富んだ曲想により華やかな雰囲気が作られる。

No. 3 白鳥たちの踊り (第2幕 第13曲)

ファゴットの伴奏にのり、木管楽器がどこか哀愁の漂うメロディを演奏する。短いが有名な曲である。

No. 4 情景 (第2幕 第13曲)

オデットと王子の愛の踊り。木管楽器の神秘的な序奏、そしてハープのカデンツァの後のヴァイオリンソロが甘く美しい響きを奏でる。

No. 5 チャルダーシュ:ハンガリーの踊り (第3幕 第20曲)

挨拶をするような感じの序奏に続いて,哀愁を帯びたメロディがゆったりとヴァイオリンで歌われる。途中からリズムが活発になり、テンポが急に速くなるとそのまま熱狂的に結ばれる。

No. 6 フィナーレの情景から抜粋 (第4幕 第29曲)

流れるようなスケール感を持ったメロディが弦楽器に出てきた後、ホルンが力強く引き継ぐこの場面は、悲壮感を持った王子の登場を描いている。ハープのアルペジオの後、テンポが速くなり、オーボエによる白鳥のテーマが、王子がオデットに許しを乞いオデットが王子を許す場面を表現している。

そこへロットバルトのテーマが現れ、白鳥のテーマは次第に悲壮感を漂わせながら大きく盛り上がる。オデットと王子が湖に沈んでしまった場面では、金管楽器を中心とした力強い白鳥のテーマが長調で演奏され、その後2人の死を越えた愛の力が、悪魔を征服したことを暗示する。

終結部では、月明かりの中で人間に戻ることのできた白鳥たちが、天に見るオデットと王子の魂を見守る場面を、高音質の弦とハープによる楽しいトレモロで描く。管楽器の和音が重なり、重厚な雰囲気の中全編の幕が閉じる。



A. ドヴォルザーク

後期ロマン派におけるチェコの作曲家。チェコ国民楽派を代表する作曲家である。

ブラームスに才能を見いだされ、『スラヴ舞由集』で一躍人気作曲家となった。スメタナとともにボヘミア楽派と呼ばれる。その後、アメリカに渡り、ネイティブ・アメリカンの音楽や黒人霊歌を吸収し、自身の作品に反映させている。

代表作に、弦楽セレナード、交響曲第8番、交響曲第9番『新世界より』、スラヴ舞曲集、この分野の代表作でもあるチェロ協奏曲、『アメリカ』の愛称で知られる弦楽四重奏曲第12番などがある。

ドヴォルザークは、プラハの北 30kmほど、ネラホゼヴェスに生まれた。生家は肉屋と宿屋を営んでいた。父親はツィターの名手として村では評判で、簡単な舞曲を作曲して演奏することもあった。6歳で小学校に通い始めるが校長にヴァイオリンの手ほどきを受けると見る間に上達し、父の宿屋や教会で演奏するようになった。8歳で村の教会の聖歌隊員、9歳でアマチュア楽団のヴァイオリン奏者となり、音楽的才能を見せ始める。父親は長男のアントニンには肉屋を継がせるつもりであったため、小学校を中退させ、故郷から 30kmほど離れた伯父が住む町へ肉屋の修業に行かせた。ところが、この町の職業専門学校の校長は、ドヴォルザークにヴァイオリン、ヴィオラ、オルガンの演奏のみならず、和声学をはじめとする音楽理論の基礎も教えた。

1857年にドヴォルザークはプラハのオルガン学校へ入学した。入学後、裕福な家庭の友人と知り言い、楽譜を貸してもらうなどして苦学を重ね、1859年に12人中2位の成績で卒業した。卒業後は、カレル・コムザークの楽団にヴィオラ奏者として入団、ホテルやレストランで演奏を行っていた。

1891年春、サーバー夫人の熱心な説得と高額の年俸提示に逡巡した末、アメリカに渡り、ニューヨーク・ナショナル音楽院院長となる。しかし1893年の世界恐慌により夫人の夫が破産寸前に追い込まれた為、ドヴォルザークへの報酬も支払遅延が恒常化していた。1894年チェロ奏曲に着手し、翌1895年にこれを完成させるが、これが限界だった。ドヴォルザークは夫人に辞意を伝え、周囲の説得にもかかわらず、4月にアメリカを去ったのである。

帰国後、1901年にプラハ音条の院長に就任するも、1904年持が再発し、5月、脳出血により62歳でこの世を去った。

ちなみに鉄道ファンとしても知られ、作曲に行き詰まると汽車を眺めていたと伝えられている。


交響曲第8番 ト長調作品88

この曲は、ドヴォルザークの交響曲の歩みの中でこれまでにない新しい方向をとった作品である。実際に、ドヴォルザーク自身この曲について、「新しい方式で案出された個性的な楽想を持つ、他の交響曲とは違った作品」と述べている。この曲の大きな特徴は、再びボヘミア色を濃く打ち出した事と構成の自由化という2つの点である。

ボヘミア色に関しては、<第8交響曲>では、普遍性ということをわきまえて、民族色をみせている。構成の自由化ということでは、表面的には、これまでと同じく、保守的にみえるが、その枠内でいろいろの工夫を施している。例えば、第1楽章はト長調を主調としているにも関わらず、ト短調の第1主題第1句で始まる。そして、この句はこの楽章できわめて重要な役をする。第3楽章は、スケルツォではなくて、優雅な旋律的な舞曲となっている。第4楽章は、序奏を持つ変奏曲の形だが、ソナタ形式の構成原理をおりこんでいる。この曲は、初演以来、人気の高い作品となっている。

第1楽章 Allegro con brio ト長調 4分の4拍子。 ソナタ形式。

チェロとクラリネット、ホルンによる優美でのびやかなト短調の悪歌の旋律で曲は始まる。

これは、第1主題の第1にあたる。長調で消えるように終わると、フルートが明るいト長調で快活な第1主題第2句を奏しだす。第2主題はロ短調で木管に現れる。展開部は、速度を落とし、第1主題第1句をト短調で静かに出す。再現部は、トランペットが第1主題第1句をフォルティッシモで奏し、頂点を築いた後、急速にピアニッシモになり、第1主題第2回がコーラングレで奏される。速度を落とすと、第2主題が現れ、最後に第1主題で結尾となり、曲は輝かしく終わる。

第2楽章 Adagio 八短調 4分の2拍子 不規則な3部形式。

この楽章は最もドヴォルザーク的である。落ち着いた田舎を思わせる弦のやわらかい旋律で曲は始まり、小鳥の鳴き声のようにフルートとオーボエが加わる。穏やかな頂点を築いた後静寂に戻り、明るいハ長調に転ずる。ここで第2部に入り活気を呈して、フルートとオーボエの優美な旋律を弦の上に奏す。冒頭の旋律が戻り、楽章の頂点が築かれ、弦と管が優美な旋律を示すも、曲は静かに消え入る。

第3楽章 Allegretto gazioso ト短調 8分の3拍子 3部形式。

第1部はメランコリックで木管の動きの中に主題をヴァイオリンで奏す。この旋律が何度も繰り返されたのち、曲はト長調のワルツ風のトリオに入る。ここでフルートとオーボエが明るい朗らかなトリオの主題を奏す。これが他の楽器で反復されてから第1部が再現される。曲は結尾に入り、クライマックスを楽き上げたのちに、消えるように曲は終わる。

第4楽章 Allegro, ma non troppo ト長調 4分の2拍子 ソナタ形式がおりこまれた変奏曲形式

トランペットが行進曲風の旋律を力強く奏して曲は始まる。これが遠ざかるように消えてゆくと、チェロが第1楽章の第1主題から導かれたエキゾティックな、軽やかな主題を出す。第1変奏ではヴァイオリンがその主題を装飾する。第2変奏は全管弦楽が主題を力強く取り扱う。第3変奏でトランペットとファゴットが主題の輪郭を出し、フルートが軽やかに主題を飾る。第4変奏で曲は再び活発になり、第5変奏ではハ短調でジプシー風の感じも持ち、特異なリズムに乗りオーボエとクラリネットが、ソナタ形式の第2主題に相当する新しい性格の旋律を出す。第6~第10変奏までこの新しい旋律を扱いながら曲は次第に熱を帯び、騒然とする。展開部にあたる第11、12変奏が終わると、曲は強烈な和音でト長調に帰る。そして金管が奏し、チェロに主題が明瞭な形で現れる(再現部)。ここからまた変奏が始まるが、そのまま全曲の結尾に入り、次第に速度を高め、強烈な響きのうちに曲は印象深くというより、むしろ騒がしく終わりを告げる。

KプレミアムOBオーケストラ

慶應義塾大学公認団体「Kプレミアムオーケストラ」創立10周年の節目に、その卒業生により結成されたオーケストラ団体です。